越前和紙 千五百年の技と用具

伝統の技を受け継ぐ、越前和紙の縁の下の力持ち。

1500年の歴史を誇る紙漉きの技を支えてきた、用具づくりの職人たち。
そこには、伝統ある越前和紙のあゆみと共に
育まれてきた技と絆があります。

指物

紙漉き職人と阿吽の呼吸で作る、馴染みの用具。
吉田屋指物 三代目 吉田 實さん

吉田さんは指物職人として約65年間、越前和紙の紙漉きに使用する様々な用具を作り続けてきました。「用具は、基本的に紙漉きをする地域で作られるもの。良いものを作ると何十年ももちます。ですから、実際は修理の依頼の方が多いですね。ときには『明日の朝までに直してほしい』という注文もありますが、イヤがらず責任をもって翌朝までに修理する。すると職人さんは、とても喜んでくれる。それがやりがいですね」と穏やかに微笑みます。

「いろいろな用具がありますが、木の桁の修理や製作が多いですね」と語る吉田さん。桁とは竹の簀をはめて紙料を汲むための用具のことです。上桁と下桁を蝶番で連結し、間に簀をはめて使います。「桁の素材は、青森ヒバです。和紙づくりは水を使うので、水に強い木でないといけない。越前和紙1500年の歴史の中で、自然とこの素材になったんでしょう。また、何年も繰り返し使うので、しっかり乾燥させた素直な木を使わないといけません。桁の金具も、地元・今立地区の鉄工所で専用のものを作ってもらっています」。
越前和紙の里では、漉く紙の種類によって用具の種類や設備の規模等が決まるため、基本的に奉書を漉く家は奉書のみを漉いています。

使用する用具も各家で形状等が異なるため、桁づくりはすべてオーダーメイドになります。
「用具を見るだけで、どんな紙を漉く、どこの家の用具かがわかる」と言う吉田さん。「職人さんとは阿吽の呼吸で、どんな風にするといいのかのさじ加減まで全部わかります。たまに試作用に変形サイズの桁の依頼もありますが、それもお客さまの指示に合わせて手作りしています」。
使うほどに手になじみ、傷んでも丁寧に修理をしながら、大切に受け継がれてきた越前和紙の用具たち。今では用具を作る指物屋はわずか1軒だけとなりましたが、後継者もいらっしゃり、技を伝えながら越前和紙の歴史と未来を支え続けていきます。

簀

紙漉き職人の視点で、
使いやすい簀を目指して。
有限会社やなせ和紙 姉川民枝さん

鳥の子の紙漉きを手がけて、約40年の実績をもつ姉川さん。平成27年から、紙漉きに欠かせない簀の作り方を学んでいます。簀とは、柔軟で弾力性に富んだ竹を丸く極細に削り、絹糸で編み上げたもの。木の桁に挟んで漉槽の中から紙料を汲むための道具で、奉書紙などには越前和紙だけの特徴とも言える1寸(3cm)幅に編み込まれた竹ひごの跡を見ることができます。

「これまで簀を作ってくれていた方が亡くなり、このままでは簀を新しく作ったり直したりする職人がいなくなってしまうという危機感が越前和紙の里全体に広がりました。私が子どもの頃は、越前和紙を作るどこの家でも、祖母などが壊れた簀を手直ししていた記憶があり、私でよければと引き受けたのですが、これが一大事でしたね」と語る姉川さん。
愛媛県に和紙の道具作りの保存会があり、そこで研修を受け簀の基本的な作り方を学びました。簀は、竹の節になった部分をさけて作るため長さに限界があり、横幅の広い簀を編むには竹を数ヶ所で接合します。「ちょんつぎ」、「ねりつぎ」、「ふりつぎ」等の方法がありますが、このとき竹がプクッと浮いてしまう、いわゆる“踊り”が出ないよう気をつけなくてはなりません。

「良い簀を作るには、絹糸の締め方が大事です。1本1本絹糸に重石をからめ、素材を確かめながら“踊り”のないよう均等に編んでいくのは大変ですね」と語る姉川さん。上達の秘訣は、「とにかく編み込んでいくこと」だそう。慣れると同じような感覚で編めるようになり、「目の揃った簀」になるといいます。「簀はできあがったときが完成ではなく、10年20年と使っていくうちにやわらかくなって漉きやすくなるもの。自分も紙を漉くので、実際に紙を漉くときに使いやすいようにという視点もありますね。
周囲の期待が大きくてプレッシャーもありますが、今は仕事が終わってから家で毎日編む練習を続けています」。